感想「EAST MEETS WEST」監督 岡本喜八 肩透かし or 型破り?
ぼくの岡本喜八デビューとなった、今回。これで良かったのかと自問しなければならなくなった感あります。
というのも、今作、非常に掟破りな作品というか、とにかく定石通りにはいかない、破天荒な作品だからですね。いや、破天荒も違うと思うんですよね。そんな風にアウトローで強い感じはなくて、作中の竹中直人演じる、為次郎のすっとんきょうな感じというか、間の抜けたというのが正しいんだと思います。
この物語、江戸末期、咸臨丸がアメリカへ渡るという所から始まって、井伊直弼やジョン万次郎に勝麟太郎(海舟)さらには福沢諭吉など、歴史に詳しくなくともその名を知っている偉人たちが登場しますが(さらには役者のメンツも中々の顔ぶれ)何と、彼らは物語の初めにちょこっと出るだけで、本筋にはまったく絡みません。
最序盤の状況説明の早さから言って、そこはもう意図的なのだろうと思います。日米修好通商条約があって、その締結のために彼らがいます。そして、という所までが早口に語られて、映画的にも重要なのが、その「そして」の後に続く、真田広之演じる、上条健吉(サムライ)と竹中直人が演じる、為次郎(ニンジャ)の二人。
あらすじとしては、サムライとニンジャが、西武のガンマンと対決するというものですが、これも文字通りに受け取ってはいけません。物語は確かにその通りですが、格好いい真田広之が、ばったばったとガンマンを切り倒し、無双するといった類の話ではないのです。勿論、そういった要素はありますが、クライマックスの一部だけです。
開国阻止派の上条に三千両を奪った疑いがかかり、命を受け、為次郎が彼を追いかけるというのが、メインのストーリーです。話の流れとしては反発する二人が、最後には協力して、奪われた三千両を奪い返すという物語になるということは、ある程度物語を見慣れている人には予想できることかもしれません。
しかし、この映画に奇妙な物語のこぶのようなものが付いてるのです。
今作は上に書いたような、西部劇×時代劇や、命を狙い合う二人の協力劇のようなものを期待すると肩透かしを食らいます。それはなぜかというと、やはり製作者が意図的にそう作っているとしか言いようがないですが(上記したように、有名な偉人を配しておきながら、活用はしない)これは一つの実験と見るほかないと思います。
全体的に、物語の奇形が目立つ作品ではありますが、ぼくが一番気に入っているのは、ハーディ先生のはちゃめちゃ具合ですね。
ギャングの仲間の一人が彼の教え子だと判明した瞬間から、上条たちの同行者というモブでしかなかったハーディ先生の物語が急に始まる感じがするのです。というのも、そのすぐ後に、彼の故郷へ寄る場面があり、妻を置いて、遠い町で教師をしていたことや、立ち寄ったバーで元教え子に出会い、彼らを旅に連れて行くなど、映画としては三十分も登場していないはずの彼に、ばんばん設定が追加されていく様子は、製作者の悪乗りに見えるくらい不自然なのですが、なぜか面白いと感じてしまう。
また、ハーディ先生は敵役を除けば、作中唯一の死人なのですが、彼がいることでメインの役どころである上条と為次郎の物語が薄れ、群像劇のような気がしてくるんですね。
この映画、肩透かし、期待外れのような感想を見るのですが、その実、もしかするとかなり計算され尽くした映画なのではないか、とぼくは思います。定石通りにはいかないなりに、きちんと手順を踏んだ物語の進め方であったり、奇形化しつつも流れを滞らせた場面のあとには、そのフォローが入る。
定期的に入るお色気シーンや、最後の大オチなど、馬鹿映画とみられるかもしれませんが、これはちょっと普通の馬鹿映画とは違う。
ぜひ、もう一度見直したいと思いました。
眠れないGWの終わりの夜