感想日記 夜明けの青

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感想「ジョン・ウィック チャプター2」復讐譚の行き着く場所

 

 

 結末に納得がいかなかったので、感想です。どうせなら、引退するまでを描いたチャプターゼロを見たかった。

 

 まず、不満点を挙げると大きく二つあるかな、と思います。まず、誓印。ジョンウィックを殺し屋の世界に引きずり出すための道具で仕方ないとは思いつつ、濃厚に後付け臭がするのがかなり不満。

 次に、バッドエンドであること。今回は主にこれについて考えたいなと思います。

 

 えー、ジョンが世界中の殺し屋から狙われ、安全圏を失い、どこかへと走り去っていくシーンで終わるこの映画ですが、キャラと世界観からその結末について、考えたいと思います。

 で、キャラからですが、キアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィックは、愛する人のために引退を決意した凄腕の殺し屋ですが、ひょうなことから業界に戻ってくるはめになる、という不幸なキャラクターです。彼の殺しについては数々の逸話があり、登場するキャラクターが実に興味深い話を、様々話してくれます。中でも鉛筆一本で三人を殺したという話は繰り返し話されるほどで、殺し屋業界の人間が彼に一目置いているというのがよく分かります。また、引退した彼が裏の世界に戻ってきた時、誰もが心配そうな顔で、彼に話しかけるシーンなどを見ると、彼が愛されているのが伝わってきます。まあ、恐ろしいほどの凄腕暗殺者が、また問題を起こすんじゃないか、という心配もあるとは思いますが、誰もが彼の奥さんのことを話題にし、残念だと口にするのを見ると、それだけじゃないという感じを受けます。

 そして、前作冒頭の物悲しい雰囲気や、今作のホームレスのキングの「貸し一つだぞ」というセリフに「俺に貸しはまずいぞ」と返すなど、ちょっとしたユーモアを見せたり、かなり愛らしいキャラ造形をしていると思います。また、キアヌ自身のパーソナルもジョンウィックというキャラクターを親しみやすくしているとぼくは思います。

 そんな彼がたった一人でも復讐のためにマフィアに立ち向かう姿というのは、かなり愛着が湧くと思うのですよね。防弾チョッキを着ながらも、銃弾を受ければ、それは痛い。ジブリのキャラクターはこけることで、観客に親しみを持ってもらうと言いますが、ジョンウィックは撃たれ、殴られ、蹴飛ばされるシーンが散々あり、まさにジブリキャラと同じ理屈で、彼の造形には深みが与えられているでしょう。

 

 えー、つまり何が言いたいかというと、これだけ彼に感情移入させておいて、チャプター2で簡単に彼をバッドエンドにしたのは、これは脚本上の瑕疵じゃないのか、と言いたい訳です。というか、感情の面で言えば、ぼくはそう思います。

 ですが、前作からこの業界の倫理を見てみれば、今回のエンディングは納得のいくものであり、復讐譚の行き着く先を描いたのではないでしょうか。

 

 ところで、みなさんは「ジョンウィック」を見ていて、もう彼にちょっかい出すのやめとけよ、と思わなかったですか?
 例えば、前作のロシアンマフィアの父親や、今作の有象無象の殺し屋たち。伝説級の殺し屋を、彼らは本当に殺せると思っているでしょうか。勿論、それはジョンウィック本人も例外ではありません。彼は一人なのにもかかわらず、街を牛耳るマフィアを相手取る訳ですが、誰もが「やめておけ」と忠告するのも聞かず、本当にマフィアを一人で潰してしまいます。

 実は、彼らは同じ構造なのです。ジョンウィック、前作のロシアンマフィア、今作のイタリアンマフィア。彼らはどうしても復讐をやめられない。というよりも、復讐しないという選択肢が存在しないのでしょう。それは彼らが身を置く、裏の世界の常識のように思います。

 彼らの世界は独立した貨幣を使い、命をやり取りするという性質上、完全な実力社会であり、外から持ち込んだ力を行使しても、そこでは通用しません。そんな世界で復讐しないということはどういうことかというと、自分はどれだけ痛めつけられてもやり返さない、突き詰めれば、命すら投げ出すことになるでしょう。自分のことは自分で守るとはそういうことで、自分の力を誇示しないことには、この業界では生き残ることはできない。

 つまり、彼らが復讐するという時、それは彼ら自身の生き残りをかけた戦いを意味します。

 一方で、そういった世界観を抜きにしてみると、主人公のジョンは自制の効かないダメ男という側面も見えてくると思います。たかが車、たかが犬。勿論、それだけではないのは分かりますが、引退した彼はもはや殺し屋でもありません。力がなければ、家に押し入られ、犬を殺され、車を盗まれても、復讐するということは叶わないはずです。一般人なら警察に通報して、それっきりが普通だと思います。ぼくらには生活があるはずですから。繰り返しますが、彼は殺し屋家業を引退した身でありながら、葬ったはずの過去を掘り起こし、復讐へ向かいます。先述した殺し屋の価値観が彼に染み付いているのは分かりますが、それでも相手はマフィアのボスの息子であり、彼を殺せば、組織を相手にすることは分かりきっているのに、ジョンは復讐に情熱を傾ける訳です。

 そして、もう一度、彼らの復讐に対する価値観に戻ってくると、復讐しないという選択肢が存在しない以上、彼らの復讐には歯止めがなく、際限がありません。殺し屋である彼らは、いつまでもいつまでも復讐の輪舞を踊り続けることでしょう。

 チャプター2の最後でも彼はこう言います。

「俺に近付く奴は、全員殺してやる」と。

 ここまで考えると、今回の結末は、ジョンが最初の復讐を決意した時点に既に決まっていたように感じます。初めの一歩を踏み出してしまった以上、彼はいつまでも復讐の終わらない世界で、押し寄せるリヴェンジャーを返り討ちにする宿命だったのでしょう。

 ただ、そうなると誓印がどうにも気に入らない。作品の時間軸上は、引退の時点に交わされた約束ですが、作品外の時間で見ると、そりゃあ後付けだろう、と。続編のせいで、登場人物が不幸にされるとはよく聞く話ですが、目の前でやられるとそりゃあ気にいらんよな、と思いました。以上です。

 

 というか、やっぱりジョンウィック引退直前のチャプターゼロが見てみたいなぁ。

 

夕暮れがやってきた雨上がりの一月